2018年第8回エステ感動物語 準優秀作品賞

そのエステサロンは、実家の近くにあるお気に入りの美容院の二階にありました。
ずっと気にはなっていたけれど、どこか私には場違いな気がする…。私なんかが入っていいのかな。ちょっぴりそんな不安を抱えながら、ドキドキし ながらそっと扉を開いたのを覚えています。
エステティックサロン「improve(インプローブ)」は、私が初めてエステ体験をする店になりました。
店内にはゆったりした音楽が流れ、優しい香りのするアロマと蒸気がふんわりと漂っています。想像していた通りの「エステサロン」の上品なイメー ジに最初緊張していると、それを打ち消すようにスタッフの方が気さくに話しかけてくれました。
当時の私は、毎日毎日必死で仕事に明け暮れていました。男性と同じ仕事量をこなしているうちに、化粧もおろそかになり、髪型もワンパターンにな り、服装も地味なものになっていき…と、お世辞にも女性らしいとは言えない日々を過ごしていました。
そんな生活の中、私は仕事関係である男性に淡い片思いをするようになりました。
けれど、なりふり構わず仕事をしていたせいで、今のままでは恥ずかしくてその人に近づけない。
自分を変えたい。もっとキレイになりたい。今からでも間に合うだろうか。そう思って、私は生まれて初めて、エステに通うことを決めました。
疲労でかさついた肌とむくんだ足にコンプレックスを持っていた私は、スタッフの方に相談し、約半年のエステコースを契約することにしました。
少し長いコースでしたが、コースをやりきった時、自分がどれだけ変われるかとても楽しみだったのです。
今までよりほんの少し仕事を早く終わらせて、エステサロンに通う日々が始まりました。ゲルマニウム温浴は寒い日でも体の芯からぽかぽか温めてく れ、下半身の痩身マッサージは、コンプレックスだった足を少しずつ引き締めてくれました。
エステ契約時に、スタッフの方が効果の比較用に私の全身写真を撮影していたのですが、1か月、3カ月とコースを続けていくうちに写真の中の私が少 しずつ変化していくのが分かりました。
足を閉じてまっすぐ立った時、最初は太ももの間には少しも隙間がありませんでしたが、少しずつ隙間が出来ていくのが目で見て分かりました。とっ ても嬉しかったのを今でも思い出せます。
スタッフの皆さんも良い方ばかりで、仕事の愚痴や最近行った旅行の話など、他愛無い話もとても楽しそうに、盛り上げながら聞いてくれました。
もしかしたらばれていたかもしれませんが…「これは私の友達の話なんだけど」と、恋愛相談をしたときにも、マッサージをしながら真剣に聞いてく れて、とても気持ちが楽になりました。やっぱり恥ずかしくて、なかなか人に相談できなかったのですが、エステの間は心も体も解放されて、とても リラックスできました。
そうして、契約していたコースがすべて終わるころ。私はほんの少し痩せた体型と、なにより「女性らしい意識」を取り戻すことが出来ました。 エステの効果を実感したことで自分に自信が付き、仕事をする以前のように、化粧をし、美容院に通い、新作の服をチェックする余裕を持つようにな りました。
女性らしくいるって、こんなに楽しい事なんだ。女性らしくいることは、誰かの為じゃない。自分が楽しく毎日を送るために必要なんだ。そういう思 いが芽生えるようになりました。
一つのエステサロンが私を大きく変えてくれました。本当に感謝しています。
さて。肝心の片思いはというと・・・結局成就はしませんでした。
ただしその代わり、エステに通い始めてから半年後の夏。別の出会いに恵まれ、それからずっとその人と良いお付き合いが続いています。
今の彼は出会った時の私の印象について「自分に自信を持って、毎日を楽しんでいるように見えた。目がキラキラしていた。」と、話してくれました。
人のためだと思って自分磨きを始めたつもりが、それはいつの間にか自分を成長させ、前向きにさせ、結果的にもっと自分自身を好きになることに繋 がっていきました。
些細なありふれたきっかけかもしれません。けれど、「もっとキレイになりたい。」そう思って、勇気を出してエステサロンの扉を開いたこと。それ が、今の私に繋がっていることは間違いありません。
私は、昔よりずっと、今の私のことが好きです。